イベルメクチンのコロナへの治療効果について
イベルメクチン(商品名ストロメクトール)はコロナウイルス感染症の治療や予防に有効ではないかと色々と調べられています。
疥癬の治療薬なのに、ウイルス感染症の治療に用いるのは不思議な感じですが、
TNFαやIFNγといった炎症性サイトカインをイベルメクチンが抑制するとか言われているそうです。
PubMedで検索すると、2020年からの2年間で415例も論文がヒットします。
凄く注目されていますね。
ちょっと内容を見ると小規模な試験や、感想文の多いレビューだったりしますが今回はNEJMという医学論文では最も権威がある論文に投稿された試験の紹介です。
果たして、イベルメクチンは有効であったのでしょうか?
大手町の内科クリニックのコラムです
1.イベルメクチンは有効なのか無効なのか調べた試験の紹介
2.イベルメクチンの論文のアブストラクトの和訳
3.感度解析について
の順に記載します。
1.イベルメクチンは有効なのか無効なのか調べた試験の紹介
別に権威主義でNEJMが経典というわけではないのですが、
二重盲検プラセボ対照無作為化多施設共同で症例数を集めており、やはり一流誌に掲載される論文はしっかり作られているなと感じます。
Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19
NEJMはアブストラクトの和訳も出るのですが、昨日(2022/3/30)に公開されたばかりでまだ和訳は出ていません。
2.イベルメクチンの論文のアブストラクトの和訳
アブストラクトを簡単に訳します。
背景 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)による急性症状のコロナウイルス症2019(Covid-19)外来患者における、イベルメクチンの入院抑制効果や長期的な影響は不明です。 方法 ブラジルの12の公衆衛生クリニックから募集した症候性SARS-CoV-2陽性の成人を対象に、二重盲検無作為化プラセボ対照試験です。 Covid-19の発症7日以内、重症化因子を少なくとも1つ持つ患者を、イベルメクチン(体重1kgあたり400μg)を1日1回3日間投与する群とプラセボ群に無作為に割り付けています。 主要複合アウトカムは,無作為化後 28 日以内の Covid-19 による入院,または無作為化後 28 日以内の Covid-19 の臨床的悪化による救急外来受診です。 結果 合計3515人の患者が、イベルメクチン投与(679人)、プラセボ投与(679人)、またはその他の介入(2157人)に無作為に割り付けられました。 イベルメクチン群では100人(14.7%)が一次アウトカムイベントを経験したのに対し、プラセボ群では111人(16.3%)が経験しました。 (相対リスク、0.90;95%ベイズ信頼区間、0.70~1.16) これら合計の211件のうち、171件(81.0%)が入院しました。 イベルメクチンまたはプラセボを少なくとも1回投与された患者のみを対象とした修正ITT(intention-to-treat)解析(相対リスク、0.89;95%ベイズ信頼区間、0.69~1.15)および指定レジメンへの100%遵守を報告した患者のみを含むper-protocol解析において、結果は主要解析と同様でした(相対リスク、0.94;95%ベイズ信頼区間、0.67~1.35)。 イベルメクチン使用による副次的転帰や有害事象への有意な影響は認められませんでした。 結論 イベルメクチンによる治療は,Covid-19 と早期に診断された外来患者において,Covid-19 による入院の発生率や経過観察期間の延長を低下させることはありませんでした。 |
噛み砕いていうと、発症から7日以内のコロナの患者さんをイベルメクチン飲む人と飲まない人で677例づつ調べています。
入院率などの経過は全く差がなかった、とのことです。
イベルメクチンは残念な結果でした。
3.感度解析について
結果のところで出てくるITT解析などの感度解析について少し説明します。
ITT(intention-to-treat)解析 治療を試みた人全員を対象とする解析 途中の脱落などがあっても、割付時点からの対象者を全て含めて行う解析です。 |
恣意的に効果を出す(予後の悪そうな人を治療対象から外す等)ことを防ぐ効果があります。
per-protocol解析 プロトコールから逸脱した人を除いて解析します。 薬の副作用で途中でやめた人などは除いて解析します。 |
薬をきちんと飲めた人での効果の大きさをみれます。
エビデンスレベルはITT解析のほうが高いのですが、どちらが優れているというものでもありません。
例えば、”副作用で継続が難しいが飲める人には効果的な薬”があったとします。 この場合ITTでは有意差が出づらく、per-protocol解析では有意差が出やすくなります。 per-protocol解析で薬の効果の大きさをみて、その後は副作用が出づらい人を特定する方法や副作用を抑える併用薬を使うなどの方向で開発が進むと思います。
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今回は全ての解析で一貫してイベルメクチンに効果なしとのことです。
なので副作用が強くて続けられないとかそういったバイアスは考えにくいです。
こういうきちんとした他施設共同試験で効果なしとでると、そろそろ決着となりそうな気もします。
イベルメクチンの処方希望の方は時々、相談に来られますが、当院では処方しておりません。
大手町の内科クリニックのコラムでした。