コロナの陽性率や致死率・信頼区間について
新型肺炎・コロナウイルス感染症について多くの情報が出ています。
PCRに関する感度や特異度、抗体陽性率の解釈色々とあるのですが
数字の読み方について少し説明するコラムです。
内科・リーレクリニック大手町のコラムです。
-
抗体検査の調査について
-
95%信頼区間
-
正確度(accuracy)や精度(precision)
-
陽性率、致死率について
の順に記載します。
抗体検査の調査について
コロナの抗体検査を行った医師がいたようです。
<新型コロナ>抗体検査5.9%陽性 市中感染の可能性 都内の希望者200人調査
検査結果では、一般市民の百四十七人の4・8%にあたる七人が陽性、医療従事者五十五人のうち9・1%の五人が陽性だった。 市民・医療従事者を合計した二百二人全体では5・9%の十二人(男女とも六人)が陽性だった。 以前のPCR検査で陰性とされたが、抗体検査で陽性だった人もいた。 |
という東京新聞さんの一面記事です。
例としてこの数字をみてみましょう。
147人中7人(4.8%)が陽性、医療従事者55人中5人(9.1%)が陽性とのことでした。
7/147で4.8%の市民が陽性という計算です。
一応計算は合ってますね。
*数字と関係ないのですが、検査希望者を医療従事者とその他に分けたのでしたら、一般市民ではなく非医療従事者とするのが自然な気がします。
普通は医療従事者って一般市民に含まれますよね。
95%信頼区間
次に、非医療従事者147人を検査して7人が陽性という結果について信頼区間もみてみましょう。
7/147で0.048(4.8%)の陽性率です。
二項検定で計算した95%信頼区間は1.9%から9.6%でした。
抗体陽性率は
0.048[95% CI: 0.019, 0.0096]
と普通は表記します。
論文を読む習慣のある人には見慣れた表記ですね。
*信頼区間の意味はネットで色々見てみてください。 「母集団から標本を取ってきて、その平均から95%信頼区間を求める、という作業を100回やったときに、95回はその区間の中に母平均が含まれる」 https://bellcurve.jp/statistics/course/8891.html こんな感じで説明されています。 |
ピンとこない方はとりあえず、なんか大体1.9%から9.6%位の人が抗体陽性になるはずなんだな、という感じで捉えておけば大丈夫です。
これがもしも、
”1470人調べて70人が陽性だった!”
という場合どうなるかみてみましょう。
同じ二項検定で計算します。
抗体陽性率は同じ70/1470で0.048(4.8%)です。
95%信頼区間は3.7%から6.0%です。
陽性率は同じですが、信頼区間の幅が狭くなってますね。
”たくさん調べたからより正確っぽいことが言えるよ” といった感じで捉えてください。
ちなみに、14700人調べて400人陽性の場合は
- 4.8%の陽性率、大体4.4%から5.1%のはず
となります。
かなり信頼区間狭くなりますよね。
全員調べないと分からない!が的外れな意見である事が伝わると思います。
簡単に表にまとめます。
陽性率 | 95%信頼区間 | |
147人中7人が陽性 | 4.8% | 1.9%から9.6% |
1470人中70人が陽性 | 4.8% | 3.7%から6.0% |
14700人中700人が陽性 | 4.8% | 4.4%から5.1% |
長々と書いてますけど、同じ数字を見ても人によって読み取れる情報量に差が有るという一例です。
僕はただの町医者ですが、臨床研究している先生や統計の専門家はとても深い理解力や洞察力を持っています。
二項分布じゃなくてポアソン分布だろ、とかそれぞれの確率比較するならF分布使えよとか言われると何も言えません。
蛇足になってしまいますが、医療従事者5/55で9.1%に関しては
95%信頼区間3.0%から20%です。
これは感覚の問題ですが、ざっくりしすぎでなんとも言えないですよね。
消費税は3%から20%の間になるよって言われたらびっくりです。
しかも20回に1回はそれより外れるという。。。
せめて4.4から5.1の間、みたいな世界であって欲しいですよね。
とにかく、サンプル数が少ないとばらつきが大きく確定的な事が言えないです。
コロナの記事で、日本ではPCR陽性数、死亡数、検査数が少ないのでまだわからない事が多いと書いていたのはこんな感覚の為です。
こういった数感覚はデータを読む上で大切だと思います。
現在の感染対策の施作決定に携わる人はこういった感覚を持っていると信じたいです。
ふわっとしたノリで、緊急事態宣言延長!とか休校!とかやっていないと信じています。
正確度(accuracy)や精度(precision)
一般に言われる数値の精度というのがありますが、統計の世界では
- 正確度(accuracy)
- 精度(precision)
があります。
正確度(accuracy)はどれだけ真値に近いか、
精度(precision)はどれだけばらつきが小さいか、
という言葉です。
例えば、今回の抗体陽性率の調査で言えば、
・抗体を調べてほしいという特殊な希望者が対象なので、とても感染対策を頑張っている人が参加している等の選択バイアスが(存在すれば)正確度(accuracy)を下げます
・一般化するには最低限、年齢や性別の標準化が必要です
・検査キットの性能が精度(precision)に影響します。
正確度(accuracy)や精度(precision)の高い試験が出来るようデザインするのが大切です。
自己資金で200人の方の抗体検査出来るような志の高い先生なのでさらにそれを活かせると良いですよね。
*すみません、検査費用5500円で有料で行っているとのことでした。
ご指摘ありがとうございます。
普通は利益相反(COI)は開示してあるのですが、新聞記事は論文ではないので省略してあったのでしょうか。
テレビで宣伝しているタレント医師だとか、ワセダクロニクルだとか色々お話は聞くのですが今回は数字の読み方のコラムですのでご容赦下さい。
例えば、
”どれくらいの人数を調べるとどれくらい正確なことを言えるか”
というのがサンプルサイズ計算です。
上記の信頼区間の計算の逆方向の事を繰り返すイメージです。
こういった事を事前にやっておく事が良い調査・研究をする上で大切です。
陽性率、致死率について
(この記事の数値の正確度や精度はかなり微妙な印象ですが)
日本全体のPCR陽性率と比較するとかなり乖離があるのは間違いないですね。
PCR13929例陽性/1.265億人
=0.011%
(5/1のデータ)
です。
1.9から9.6%が既感染だとすると、現在のPCR検査陽性の200~1000倍は患者さんがいたという事ですね。
(上記の年齢調整など全く無視している計算です)
こういう数字をもとに、
“知らない間にウイルスが蔓延している!”
と不安を煽るのではなく、
“無症状や風邪のような軽症の人が多く、実際の致死率はとても低い*と考えられます”
と正確に伝えて欲しいですね。
*5月1日時点の国内の致死率415/13929で2.98%[95% CI: 0.0270, 0.00327]
分母が200から1000倍だとすると致死率は0.015%から0.0029%です。
多くの方が指摘していますが、(半ば強制の様相を呈している)自粛や休校には、
- 多くの企業の破綻や従業員の解雇
- 不況に伴う自殺数の増加
- 犯罪発生件数の増加
- 学生の学ぶ機会の喪失
といった、単に我慢してれば良いというだけでない問題が関連しています。
そもそもの自粛による感染症を抑える効果が出ているのかの検討(検定)や、
目標の設定が大切な前提です。
緊急事態宣言を行う前から既にR0が1未満だったという話も出ています。
また、同じ予算を使って命を守る場合、費用対効果といった効率を考えて対象を選ぶべきです。
単に死者数だけでなく、障害調整生命年(死亡により失われた年数)を加味して検討したり、立派な専門家の方が検討しているのだと思います。
僕たちのリーダーは、色々ふまえて導いてくれていると信じたいです。