健康な人へのアスピリンの影響
ちょっと注目されている?アスピリンに関する論文です。
有名人が発信すると信じてしまう人がいますが、誰が言ったかではなく根拠をみるようにしましょう。
特にアスピリンは出血イベントを増やす作用がありますので気軽に飲むには危険な薬です。
最近目にした、全く根拠なく(引用文献なく)書かれていたものとしては、
”アスピリン飲むと疲れが取れる”
”アスピリン飲むと血流が良くなって筋肉が増える”
などがあります。
他にも、観察研究でアスピリン内服群に大腸がんが少なかったという論文もありました。
今回は、アスピリンを健康な高齢者が内服した場合の心血管疾患のリスクについての論文です。
Effect of Aspirin on Cardiovascular Events and Bleeding in the Healthy Elderly.
オーストラリアとアメリカの70歳以上(アメリカに住むアフリカ系およびヒスパニック系は65歳以上)で、
心血管疾患、認知症、身体障害といった合併症のない19,114例を対象に無作為化比較試験を行いました。
・アスピリン群:アスピリン腸溶性製剤100mgを1日1回(9,525例)
・プラセボ群:プラセボを投与(9,589例)
で比較しています。
結果は、心血管疾患発症率は、
・アスピリン群10.7件/1,000人年
・プラセボ群11.3件/1,000人年
で有意差ありませんでした。
大出血発生率については、
アスピリン群は8.6件/1,000人年
プラセボ群6.2件/1,000人年
と有意な差がありました。
結論としては、アスピリン内服して重大出血リスク増加して期待されていた心血管イベントリスク抑制効果もなし、とのことでした。
踏んだり蹴ったりですね。。。
ちなみに同じデータを使ってその他の原因による死亡を調査した研究では、全死亡増加、とくに癌原因死亡増加とのことでした。
大腸がんが減るって話は同じNEJMに掲載されたのですが、残念な結果です。
理論的におかしいけど相関が出た場合は扱いが難しいです。
・既知の機序とは違う形での影響の結果
・単なる偶然
の可能性があります。
アスピリンは低用量で抗血小板作用(血液をサラサラにする)のある薬です。
理論的には、脳梗塞や心筋梗塞などの梗塞(血管が詰まる)イベントを減らし、脳出血などの出血を増やすはずです。
統計的に有意な、というのは医学的にはP値0.05未満という95%信頼区間を超えて差がある場合な場合です。
5%、20回に1回は誤って有意なと判断してしまいます。
肺がん、大腸がん、肝細胞癌、などと適当に20のガンとアスピリンの関係を調べれば一つくらいは有意な差を持って増えたとか減ったとか判断してしまいます。
(きちんとした研究ならば多重性の調整なども行いますしたまたまの有意差を報告したりはしません)
統計的に有意だということを鵜呑みにしすぎないことが大切ですね。
疲れが取れるとか筋肉が増えるとか、全く意味が分かりませんが本当にそういう効果あるならメーカーが証明して販促に使っていると思います。
有名人が発信すると信じてしまう人がいますが、誰が言ったかではなく根拠をみるようにしましょう。
アスピリンが血をサラサラにする、というのは分かりやすく説明するための医師によるよくある表現ですが、厳密には違います。
抗血小板作用ですので血管内を正常に流れる血液では血小板作用は元からゼロです。
なので血をサラサラにして血流良くなったりしません。
またアスピリンは低用量だと抗血小板作用がありますが、量が増えると消炎鎮痛剤になります。
ですのでそれにより筋肉痛が和らぐと疲れが取れたと感じてしまうかもしれません。
ということで、1次予防のアスピリンは残念な結果でした。
2次予防には多くのエビデンスありますから、きちんと飲み続けましょう。
(2次予防とはすでに一度心血管疾患を起こした方の予防です)
高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病といった病気があるだけでは適応になりません。
害が増えるだけですのでご注意を。