高血圧治療薬・降圧薬(ACE・ARB)とコロナ(COVID19)
新型肺炎コロナウイルスの感染と高血圧(降圧薬)に関するコラムです。
ACE,ARBとコロナウイルス感染症の関連についてです。
いきなり聞くと何の関連もなさそうなACE,ARBとコロナウイルス感染症の関連についてです。
まず、ACE,ARBはたくさんあるのですが簡単に紹介します。
ACEアンジオテンシン変換酵素阻害薬 |
カプトプリルレニベースエナラプリルコバシルコナン 等 |
ARBアンジオテンシン受容体拮抗薬 |
ニューロタン(ロサルタン)ブロプレス(カンデサルタン)ディオバン(バルサルタン)ミカルディス(テルミサルタン)オルメテック(オルメサルタン)イルベタン・アバプロ(イルベサルタン)アジルバ(アジルサルタン) |
JAMAの掲載内容を読めば分かるのですが、少し段階を追う必要があるお話で結論も出ていないです。
普段は元の論文を要約した内容のコラムが多いのでが、今回は前提知識や背景が必要な話なのでちょっと解説しながら流れを簡単に説明します。
-
RAAS系について
-
新型肺炎コロナウイルス感染症について
-
降圧薬の影響について
1.RAAS系について
RAAS系という血圧をコントロールするシステムがあります。
レニンーアンジオテンシンーアルドステロン 腎臓の輸入細動脈の壁にある傍糸球体細胞からレニンが分泌されます。 レニンの作用で、血液中のアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIという物質をつくります。 アンジオテンシンIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンIIに変換されます。 アンジオテンシンIIは全身の動脈を収縮させるとともに、副腎皮質からアルドステロンを分泌させます。 アルドステロンはNaを体内に溜める働きがあり、これにより循環血液量が増加して心拍出量と末梢血管抵抗が増加します。 これをレニン–アンジオテンシン‐アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System;RAAS)といい、血圧上昇後にはレニンの分泌は抑制され、この働きが低下します。 そうやって血圧を至適なところにコントロールします。 脱水の時にはRAS系が亢進(レニンが増える)し、尿量を減らしたり血管を締めて血圧を保って生命を維持します。 |
高血圧の方にこのRAS系を抑えて血圧を下げるという薬が、ACEやARBと呼ばれる薬です。
ACEやARBは通称で、正式にはそれぞれ
ACE:ACE阻害薬
ARB:アンジオテンシンII受容体拮抗薬(Angiotensin II Receptor Blocker)
です。
このACEやARBを投与されると、体内のアンジオテンシン2受容体が増加します。
身体が、「RAS系の作用が無いぞ?!」と受容体を増やしていると考えて下さい。
(こういった反応を負のフィードバックといいます)
ここまでが降圧薬の話です。
シンプルに言うと、
ACE,ARBといった降圧薬を飲んでいるとACE2受容体が増えている、
ということです。
2.新型肺炎コロナウイルス感染症について
次にコロナウイルス感染症の話です。
コロナウイルス(SARS-CoV-2)はヒト細胞への侵入における受容体がACE2です。
ACE2は幅広く発現しています。
ちなみに肺胞上皮細胞にもACE2は発現しています。
これが今回のコロナウイルスが肺炎を起こすことと関連していると考えられています。
3.降圧薬の影響について
これらから、ACE2受容体が増えている人では、コロナウイルスの侵入がたやすく、感染しやすかったり重症化しやすいのでは?と懸念されています。
(ここはあくまで仮説であり支持する根拠はありません。)
まだ検討されていませんが、心疾患の方の致死率が高いのもACE,ARBの内服している人の割合が高いことが影響しているのでは、とも言われています。
一方で、ACE2受容体が多いことが肺に保護的に働くという説もあります。
SARSに感染したマウスにACE,ARBを投与すると肺損傷を保護したという実験があります。
現時点での結論としてはACE,ARBが良いのか悪いのか不明です。
欧州高血圧学会(ESH)、国際高血圧学会(ISH)、欧州心臓病学会(ESC)は
「COVID-19を発症した患者がACE阻害薬またはARBの使用を中止すべきであることを示した臨床的、または科学的なデータは現時点では全くないことから、患者はこれらの薬剤の使用を継続する必要がある」 |
とする声明を発表しました。
簡単に言いますと、今の時点ではエビデンスないから気にしないでね、ということです。
現時点では全くエビデンスがありませんが、既にACE,ARBを内服していて不安な方は主治医に相談して下さい。
当院でも(現在の期間限定の措置により)オンライン診療で相談を受け付けています
処方箋を患者さんの最寄りの薬局にFAX出来ますのですぐにお薬を受け取れます。
僕個人の考えですが、
- エビデンスがなくても仮説があってそれが信用に足る(明らかな誤りではない)
- それを行うリスクやコストが少ない
という場合には仮説を試してみる価値はあると思います。
今回の例で言うと、原発性アルドステロン症や糖尿病合併などACE,ARBが積極的適応となる症例では気軽な変更は勧めませんが、そうでなければ他のクラスの降圧薬に変えるのは全く問題ないと考えられます。
積極的適応であっても無害というエビデンスが出るまでの期間は他の降圧薬に変えても良いと思います。
また、喫煙はコロナ感染のリスクファクターなので禁煙しておく、というのも良いと思います。
もちろんまだ禁煙後のリスクが低下するのか、低下するとしていつからなのかは誰にもまだ分かりません。
(新しい感染症なのでまだ不明です)
しかし、禁煙に害はないので取り組むべきだと思います。
反対に、予防に効果あるんじゃないかと飲んでみたいというのは、高血圧の保険診療では行えません。
エビデンスがあるからこうする!ないからやらない!だけでなく、確からしい情報を集めて、論理的に考えて、その時点でのベストな方針を立てるのが内科医の大切な技術だと思っています。
信頼できる主治医に相談しましょう。
ちなみに2021年6月時点では、カモスタット(フオイパン)がコロナ感染予防に注目されて臨床試験を組まれましたが有効性を示せませんでした。