風邪に抗菌薬
風邪に抗菌薬は有効なのでしょうか。
無効です。抗菌薬の副作用、体内の細菌の耐性化のためリスクしかありません。
適応をよく考えて使いましょう。
現代のネットで情報を手に入れる世代の方は、風邪に抗菌薬は無効ってよく聞くと思います。
(風邪の定義はウイルス性上気道炎です)
一昔前の方は、抗生物質で熱が下がった!(=細菌感染が治療された)→風邪だから抗生物質貰おう!
という方が多かったようです。
ちなみに抗生物質という言葉も誤用です。
以前溶連菌の記事で書きましたが、抗生物質というのは抗菌薬の特殊なもので、ペニシリンなどの微生物が作った抗菌薬だけを指します。
”風邪 抗菌薬”などで検索すると抗菌薬は風邪には無効とたくさん出てきます。
ウイルス感染に、細菌感染の治療を行っても無効というのは直感的には理解できます。
しかし風邪から気管支炎になったりといった状況を考えても本当に無効なのでしょうか?実際に調べたメタアナリシスが2つあります。
こちらでは、大人と小児への影響を調べています。
抗菌薬使用群では、症状の緩和に有意でないものの若干有効な傾向が見られ、副作用が大人において有意に多いという結果でした。
こちらでは、抗菌薬を使用しても合併症の予防も副作用でも差がないという結果でした。
これらの論文からは、毒にも薬にもならない様子です。
しかし細菌の耐性化については検討されていません。不要な状況で抗菌薬を使用することで細菌が抗菌薬に対して耐性を獲得する機会を作ってしまいます。
例えば、腸管に住む大腸菌が、風邪のたびに抗菌薬を処方されていたために抗菌薬の耐性を獲得した場合、その方が大腸菌による腎盂腎炎を発症すると治療に難渋します。以前問題になった滞在耐性アシネトバクター(アシネトバクターは水回りなど身の回りにどこにでもいる細菌です)なども抗菌薬の乱用が影響しています。
感染症学会の多剤耐性菌の記事(抗菌薬の適正使用についても記載されています)
短期的な副作用も心配ですが、耐性菌による感染という先の副作用(?)を考えても風邪に抗菌薬は避けるべきです。
とは言え、風邪に”抗生物質”はよく処方されています。
Aクリニックで風邪薬もらったけど治らなくて、Bクリニックで抗生物質貰ったら治った、なんて話をする人もいます。
実際には、単に風邪の自然経過の途中で抗菌薬が処方されただけと推察されますけど、こういった話があると外来にいる医師は不要と思いつつも、”ヤブ医者”なんて思われないように抗菌薬を処方してしまうのかもしれません。
でも本当に良いお医者さんとは将来の健康も考えて治療方針を提案する人で、それはきっと理解されると信じています。
僕は風邪には抗菌薬は処方していません。
肺炎の方には大慌てで抗菌薬を処方します。肺炎のガイドラインでも、肺炎の診断後4時間以内に治療を開始すること、とされています。
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